今回は真面目な記事なので面白くありません。
あと、長いです。
【もくじ】
・ミステリの鉄則について
・ロナルド・ノックスの「探偵小説十戒」
・S・S・ヴァン=ダインの「世界短編傑作集」
・ノックスの十戒とヴァン=ダインの二十則について
・レイモンド・チャンドラーの「九つの命題」
何事にも原則というものがある。
例えばフットボール。手を使ってはいけないという原則がある。
しかし、例外はある。ゴールキーパーだ。ゴールキーパーだけは手を使って良いのである。
つまり、何が言いたいのかというと、何事にも原則と例外が存在するということである。
それはミステリ小説にも当てはまることである。
以下はいずれもミステリを書く際の心得であり、原則である。
ロナルド・ノックスの「探偵小説十戒」
ロナルド・ノックスという推理作家兼神学者が1928年に「探偵小説十戒」で発表した推理小説を書く際のルール。
ミステリ愛好者の中では「ノックスの十戒」として知られている。
内容は以下の通りである。
ノックスの十戒
- 犯人は物語の序盤に登場していなければならない
- 超能力を用いて事件を解決してはならない
- 犯行現場に隠し通路・逃げ道が2つ以上あってはいけない
- 未発見の毒薬・読者にわからない科学的説明を要するものを使ってはならない
- 呪術や神秘的・摩訶不思議な能力者を登場させてはならない
- 探偵役の勘や直感、第六感で事件を解決してはならない
- 探偵自身が犯人であってはならない読者に提示していない
- 手がかりや証拠で事件を解決してはいけない
- ワトソン役は自身の判断を全て読者に知らせなければならない
- 双生児、一人二役などはあらかじめ読者に知らせねばならない
以上がノックスの十戒である。
※原文のままではなく、一部意訳をさせていただいた部分もあるがご了承願いたい。
S・S・ヴァン=ダインの「世界短編傑作集」
そして、時を同じくして1928年にS・S・ヴァン=ダインという推理作家兼美術評論家が「世界短編傑作集」で発表した推理小説を書く際のルールを発表した。
ヴァン=ダインの二十則
- 事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない
- 作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない
- 不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない
- 探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない
- 論理的な推理によって犯人を決定しなければならない
- 必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない
- 長編には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない
- 占いとか心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない
- ひとつの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠くので、探偵役は一人
- 犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない
- 端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない
- いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。但し端役の共犯者がいても良い
- 探偵小説では非合法な組織の保護を受けられるので秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない
- 殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること
- 事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に全て読者に提示しておかなければならない
- よけいな情景描写や、わき道にそれた文学的な饒舌は省くべき
- プロの犯罪者を犯人にするのは避けること
- 事件の結末を事故死とか自殺で片付けてはいけない
- 犯罪の動機は個人的なものが良い
- 自尊心のある作家なら、次のような使い古された手法は避けるべきである
◦ 犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法
◦ インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる
◦ 指紋の偽造トリック
◦ 替え玉によるアリバイ工作
◦ 番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる
◦ 双子の替え玉トリック
◦ 皮下注射や即死する毒薬の使用
◦ 警官が踏み込んだ後での密室殺人
◦ 言葉の連想テストで犯人を指摘すること
◦ 土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法
以上が二十則である。
※こちらも一部意訳、簡潔化をさせてもらった。ご了承願いたい。
どちらもwikipediaに載っいるので興味があれば覗いてもらいたい。
両者とも上記の鉄則を破った作品を執筆しており、そのための伏線だったのかもしれないと推測する。
原則と例外をうまく使い分けろという意味合いが大きかったのかもしれない。
では、なぜこのような原則を作ったのか。
それは書き手と読み手を公平に、同じ条件にするという意味合いが大きいのかもしれない。
つまり、書き手(出題者)が読み手(回答者)に無理難題を仕掛けてはいけないということなのだろう。
ロナルド・ノックスの十戒とS・S・ヴァン=ダインの二十則
ノックス氏とダイン氏には多くの共通点が存在する。
ノックス氏とダイン氏は推理作家だ。
ノックス氏とダイン氏が提唱したルールは1928年である。
ここで生まれる疑問点としては「どちらかがどちらかを模倣したのではないか?」ということが挙げられる。
しかし、当時の出版状況を鑑みるとどちらかがどちらかを模倣したというのは考えにくい。
また、ノックス氏は英国、ダイン氏は米国とそもそも国が違うのでやはり模倣は難しいだろう。
さらに内容を鑑みてもそれはわかることである。
ノックスの一項目とダインの十則目。
ノックスの二項目とダインの八則目。
ノックスの四項目とダインの十四則目。
ノックスの六項目とダインの五則目、あるいは八則目。
ノックスの七項目とダインの四則目。
ノックスの八項目とダインの十五則目。
ノックスの十項目とダインの二十則目。
などである。
両者は同じことを述べているだけに過ぎず、どちらかが模倣したのであればここまで被らせる必要もないはずだ。
それでは、数の多いヴァン=ダインの方が優れているのかと尋ねられると答えは否である。
ヴァン=ダインはあくまで「推理小説とは」にこだわって書いている。
そのため、あれは推理小説じゃなくてスパイ小説。
こっちはハードボイルド小説だから推理小説じゃないね。
などと「推理小説とは」といった意味合いが強い。
どちらが優れているかなど論ずるだけ無駄であると考える。
重要なのはどう生かせるのかに尽きるだろう。
さらにもう一つ。
ここで紹介したい原則がある。
チャンドラーの九つの命題
チャンドラーの命題というとアルフレッド・チャンドラー氏の経営に対する命題を思い浮かべる諸氏も少なくはないだろう。
しかし、ここで記述するチャンドラーは小説家兼脚本家のレイモンド・チャンドラー氏である。
ただ、前述した2氏が推理作家であるのに対してチャンドラー氏はハードボイルド作家である。
こちらの命題は1944年に発表され、1949年に改定されたものである。
チャンドラーの九命題
- 初めの状況と結末は納得できる理由が必要
- 殺人と操作方法の技術的な誤りは許されない
- 登場人物、作品の枠組み、雰囲気は現実的たるべし
- 作品の筋は緻密につくられ、かつ物語としてのおもしろさが必要
- 作品の構造は単純に誰でもわかるように
- 解決は必然的かつ実現可能なものに
- 謎解きか暴力的冒険談かどちらかに
- 犯人は罰を受けねばならない
- 読者に対してはデータを隠さずフェアプレイを
このチャンドラーの原則も述べていることに間違いはない。
しかし、このチャンドラーの九つの命題のみ年代が違う。さらにこのチャンドラー氏はハードボイルド作家である。
推理作家ではない。
ではなぜ、上記2氏にさらにチャンドラー氏を含めたのか。
前述の2氏の原則はミステリの2大原則として扱われることも少なくはない。
ミステリファンにとってはチャンドラーの九つの命題とは何ぞやと言ったところだろう。
チャンドラーの九つの命題を含めたのか。
これは次の記事にて解説しよう。
また、トリックについても記述してみた。
lollipop-candy-syndrome.hatenablog.com
気になった諸兄が居たら一読してもらいたい。