Lollipop Candy Syndrome|ロリポップキャンディシンドローム

北の大地に住まう男の子「たろ」の雑記ブログ。彼女できるまで頑張る。

【ミステリ】推理小説におけるトリックの分類~三つの棺 ・類別トリック集成 ・アリバイ講義も含めて~

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今回もまたまた真面目な記事です。

クソほど面白くもありません。悪しからず。

あくまで自分のためのメモである。

 

 前回、ミステリの原則を長々と話しました。

lollipop-candy-syndrome.hatenablog.com

 今回はトリックについて話してみたいと思う。

 

【もくじ】

・推理小説におけるトリック

・トリックの分類

 -・物理トリック
 -・心理トリック
 -・密室トリック
 -・アリバイトリック
 -・一人二役トリック
 -・死体損壊トリック
 -・叙述トリック

・双子の問題について

・三つの棺

・類別トリック集成

・アリバイ講義

 

推理小説、ミステリ小説には必ずトリックが必要です。

トリックとは何らかの方法で読者・視聴者・聴衆者・観客を謀るために用いるものを指す。

トリックには様々な種類がある。

以下、後述する。

 

トリックの分類

物理トリック

物理トリックとは基本的なトリックであり、機械的な仕組みを使い密室やアリバイを成立させるトリックである。

【具体例】

氷のつららで刺殺し、溶かして証拠の隠滅を図る。

 

心理トリック

心理トリックとは心理的な盲点を利用し、犯行の意識にあがりにくい状況を仕立てるトリックである。

【具体例】

スカートを履いているから女、ではなく女装した男の娘だった。

 

密室トリック

密室トリックとは死体等が発見された場所の出入りが不可能になっているトリックである。鍵がかかっているなど物理的密室のみならず、常に監視下に置かれている状況なども密室に含まれる。後述する三つの棺を参照してもらいたい。

【具体例】

死体が窓のない鍵のかかった部屋で発見された。

 

アリバイトリック

アリバイトリックとは時間的、場所的に犯行を行うのが不可能であったことを偽装するトリックである。時刻表トリックなども含まれる。後述するアリバイ講義を参照してもらいたい。

【具体例】

殺害した人間に変装して死亡時刻を誤解させる。

 

一人二役トリック

一人二役トリックとは犯人が別人に扮装したり、演じたりして嫌疑を逃れるトリックである。犯人が双子などはその最たる例であろう。

【具体例】

犯人が双子。

 

死体損壊トリック

死体損壊トリックとは死体に何らかの細工を施し、事実誤認を招かせるトリックである。死体の顔を切り取る、焼死体にするなど身元を不明にさせる事例が多く、「顔のない死体」とも呼ばれる。

【具体例】

殺害されたのはAではなく双子のBであった。

 

叙述トリック

叙述トリックとは媒体の持つ暗黙の了解や前提、偏見を利用したトリックである。このトリックは問題に上がることが多い。(フェア・アンフェア論争

【具体例】

古典部シリーズ第二巻「愚者のエンドロール」を。アニメ「氷菓」だと第8話~第11話を。

 

以上が具体的なトリックとなる。

しかし、後述する類別トリック集成で江戸川乱歩がトリックを類別しているのでそちらにも触れる。

 

双子の問題について

先日記したミステリの原則においてノックス氏もヴァン=ダイン氏も双子には気を配っていた。

なぜなら双子-特に同性の一卵性双生児-だった場合、簡単にトリックがつくれてしまうからである。

上記で述べたトリックのうち、心理・アリバイ・一人二役・死体損壊などで簡単にトリックが生まれてしまうからである。

 

では、上記4つのトリック方法は陳腐なのであろうか。

答えは否である。

 

金田一耕助シリーズを書き記した横溝正史氏は「密室トリック」「死体損壊トリック」「一人二役トリック」を三大トリックとしてあげている。

 

つまりは、どのトリックも書き手次第ということである。

 

三つの棺

三つの棺とは1935年にジョン・ディクスン・カーが発表した推理小説である。

この中で密室トリックの講義が行われているので、こちらを記して行きたい。

 

密室トリックとは前述したとおり出入りに制限がかけられているトリックである。

そこで、以下のように考えられる。

 

■犯人は密室内に居なかった場合

  • 偶然的な出来事により、自殺及び事故を殺人と誤解
  • 遅効性の毒物などにより被害者が絶命するよう図る
  • 室内に隠された仕掛け等による殺人
  • 故意に殺人に見せかけた自殺
  • 既に死亡した人物が生きているように見せる
  • 犯人は室外にいたが、犯行は室内で行われたと誤認
  • 未だ生きている人物を死んだように見せかけ後で殺害

■ドアの鍵が内側から閉じられているように見せかける。

  • 鍵穴に差し込んだままの鍵を糸などで操作し鍵をかける
  • 蝶番を外す
  • ボルトを糸などで操作
  • カンヌキや掛け金を、氷などを利用して部屋を出た後落とす
  • 鍵を隠し持っておき、中に入った際に速やかに鍵を置く
  • 外から鍵を掛け鍵を中に戻す

以上がディクスン・カーが三つの棺内で記述した講義である。

※主だった事例は割愛する。

しかしこれは密室トリックが成立する原則であり、必ずしも当てはまらないといけないというわけではない。何事にも例外は存在するのだ。

 

類別トリック集成

江戸川乱歩が前述したジョン・ディクスン・カーの三つの館に触発され、古今東西のトリックを分類し、まとめた書籍である。

江戸川乱歩の分類は以下のとおりである。

 

第一:犯人(または被害者)の人間に関するトリック

A.一人二役 
・犯人が被害者に化ける
・共犯者が被害者に化ける
・犯人が被害者の一人を装う
・犯人と被害者と全く同一人物
・犯人が嫌疑をかけたい第三者に化ける
・犯人が架空の人物に化ける
・替玉二人一役
・双生児トリック
・一人三役、三人一役、二人四役


B.一人二役のほかの意外な犯人
・探偵が犯人
・裁判官、警官、典獄が犯人
・事件の発見者が犯人
事件の記述者が犯人
幼年または老人が犯人
不具者、病人が犯人
死体が犯人
人形が犯人
意外な多人数の犯人
動物が犯人


C.犯人の自己抹殺(一人二役以外の)
焼死を装う
その他の偽死
変貌
消失

 

D.異様な被害者

 

第二:犯人が現場に出入りした痕跡についてのトリック

A.密室トリック


犯行時犯人が室内にいなかったもの

イ.室内の機械仕掛け
ロ.窓または隙間を通しての室外からの殺人
ハ.密室内にて被害者自ら死に至らしめる
ニ.密室における他殺を装う自殺
ホ.密室における自殺を装う他殺
ヘ.密室における人間以外の犯人

 

犯行時犯人が室内にいたもの

イ.ドアのメカニズム
ロ.実際より後に犯行があったとみせかける
ハ.実際より前に犯行があったとみせかける--密室における早業殺人
ニ.ドアの背後に隠れる簡単な方法
ホ.列車密室


犯行時被害者が室内にいなかったもの

・A.密室脱出トリック
B.足跡トリック
C.指紋トリック

 

第三:犯行の時間に関するトリック

・A.乗物による時間トリック
・B.時計による時間トリック
・C.音による時間トリック
・D.天候、季節その他の天然現象利用のトリック

 

第四:兇器と毒物に関するトリック

A.兇器トリック

・異様な刃物
・異様な弾丸
・電気殺人
・殴打殺人
・圧殺
・絞殺
・墜落死
・溺死
・動物利用の殺人
・その他の奇抜な兇器


B.毒薬トリック

・嚥下毒
・注射毒
・吸入毒

 

第五:人および物の隠し方トリック

A.死体の隠し方 

一時的に隠す
永久に隠す
死体移動による欺瞞
顔のない死体

B.生きた人間の隠れ方

C.物の隠し方
宝石
金貨、金塊、紙幣
書類
その他

D.死体および物の替玉

 

第六:その他各種トリック

鏡トリック
錯視
距離の錯覚
追うものと追われるものの錯覚
早業殺人
群集の中の殺人
「赤髪」トリック
「二つの部屋」トリック
プロバビリティーの犯罪
職業利用の犯罪
正当防衛トリック
一事不再理のトリック
犯人自身がその犯行を遠方から目撃するトリック
童謡殺人
筋書殺人
死者からの手紙
迷路
催眠術
夢遊病
記憶喪失症
奇抜な盗品
交換殺人

 

第七:暗号記法の種類

A.割符法 
B.表形法
C.寓意法
D.置換法
普通置換法
混合置換法
挿入法
窓板法
E.代用法
単純代用法
複雑代用法
  イ.平方式暗号法
  ロ.計算尺暗号法
  ハ.円盤暗号法
  ニ.自動計算機械による暗号
F.媒介法

 

第八:異様な動機

A.感情の犯罪

恋愛
復讐
優越感 
劣等感
逃避
他の犯罪

B.利慾の犯罪

遺産相続
脱税
保身防衛
秘密保持

C.異常心理の犯罪

殺人狂

芸術としての殺人
父コンプレックス

D.信念の犯罪

宗教上の信念
思想上の信念
政治上の信念
迷信

 

第九:トリッキイな犯罪発覚の手掛り

・A.物質的手掛りの機智
B.心理的手掛りの機智

 

以上が江戸川乱歩の分類である。

※wikipedia参照

 

 江戸川乱歩全集第27巻 続・幻影城内で記述されている。

諸兄らの中で興味のあるものがいたら購入してみるのも一興だろう。

 

アリバイ講義

私の敬愛する有栖川有栖氏もジョン・ディクスン・カーの三つの館に触発されアリバイトリックの分類を行っている。

これは1990年に発行された『マジックミラー』の第7章「アリバイ講義」において論述されているものである。

1.証人に悪意がある場合

・証人が嘘をついていた場合。

【具体例】
『ナイルに死す』(アガサ・クリスティ)、『不連続殺人事件』(坂口安吾)

2.証人が錯覚している場合

a.時間を錯覚している場合
  証人が見る時計の針に細工をする、日にちを間違わせる、曜日を間違わせる、など。
b.場所を錯覚している場合
  証人が犯人と一緒にいる場所(アパート、新幹線、山や川など)を間違わせる、など。
c.人物を錯覚している場合
  犯人が替え玉を使った場合。

【具体例】
『人それを情死と呼ぶ』(鮎川哲也)

3.犯行現場に錯誤がある場合

例えば実際の犯行現場はA市の山林で、後で死体をB市の雑木林に移動させてB市を犯行現場と思わせるもの。

4.証拠物件が偽造されている場合

写真トリック(合成写真)が典型。

【具体例】
『フレンチ警部の多忙な休暇』(F・W・クロフツ)

5.犯行推定時間に錯誤がある場合

・a.実際よりも早く偽装する場合
  例えば3時に殺した被害者が、2時には既に死んでいたように見せかけ、2時のアリバイを用意するというもの。
・b.実際よりも遅く偽装する場合
  例えば3時の時点で生きていた被害者が、4時まで生きていたと思われるよう細工して、4時のアリバイを用意するというもの。

【具体例】
『鍵孔のない扉』(鮎川哲也)

・A.医学的トリック
  死体を冷やしたり熱したり、胃の消化物を加工したりして、死亡推定時刻の判定を狂わせるもの。
B.非医学的トリック
  医学的トリック以外の方法で、aとbの例に挙げたような細工をするもの。
AとBにそれぞれaとbがある。

6.ルートに盲点がある場合

例えば移動するのに1時間かかる2地点間を、意外なルートを使って30分で移動するというもの。
時刻表を使った鉄道ミステリに作品例が多いが、例えば歩いて1時間かかる山道を断崖の上からパラシュートで数分で下ったというものも該当する。

【具体例】
『シタフォードの謎』、『ゼロ時間へ』(アガサ・クリスティ)

7.遠隔殺人

a.機械的トリック
  時限装置によって発射される拳銃や時限発火装置など。
b.心理的トリック
  催眠術をかけた相手や夢中歩行癖のある相手に、危険な行為をさせるというもの。

【具体例】
『空白の起点』、『炎の虚像』、他(笹沢佐保)

8.誘導自殺

相手に精神的に大きなショックを与えて、自殺に追いやるもの。

【具体例】
『暗い傾斜』、他(笹沢佐保)

9.アリバイがない場合

犯人が訴えるアリバイが、実はアリバイでも何でもなく、読者にアリバイがあると思い込ませるもの。

【具体例】
『真昼に別れるのはいや』、他(笹沢佐保)

 

以上である。

具体例は文庫本版『マジックミラー』に記述されていた書籍を記させていただいた。

他のトリックの分類も存じている諸兄がいたらご一報願いたい。